大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(う)743号 判決

被告人 成相昭治

〔抄 録〕

そこで検討すると、本件起訴状記載の公訴事実は、

「被告人は、川上辰美が以前同人の従兄弟川上平から貸金の代物弁済として取得した松戸市和名ケ谷字花山四八八番三所在宅地三三〇・五八平方メートルの地価が高騰して多額の利益を得たことを聞知するや、これに因縁をつけて右宅地の登記義務者の権利に関する登記済証(権利証)等を喝取することにより同宅地を取得しようと企て、昭和四九年六月二〇日頃、松戸市和名ケ谷五七一番地の右川上辰美方に到り、同人に対し、「おまえは命を狙われているのがわからないか。川上平の土地をずいぶん騙して安く買って今では大変な値段になっている。平に返してやれ。」と申し向け、右辰美がこれを拒絶するや、更に同人に対し「おまえは俺の素性がどんな人間かわかっているだろう。俺は短気で非情な人間だから長びくことは嫌いだ。おまえが権利証を出すか出さないか上の道路に若い衆が二人待っている。」等と申し向け、右辰美をして右要求に応じないときは如何なる危害を加えるかも知れない旨暗示して同人を畏怖させ、因て、何れも同人から即時同所において、同人所有の前記宅地の権利証一通を、同年七月二三日頃、同所において、同人所有の同人の印鑑証明書一通を、同年九月一〇日頃、同所において、同人所有の同人の署名押印のある登記申請委任状一通を夫々交付せしめてこれらを喝取し、以て時価総合計二、〇〇〇万円相当の前記宅地並びに同地上にある何れも未登記の床面積約四九・五平方メートルの木造トタン葺平家建住宅一棟及び床面積約六六平方メートルの木造瓦葺平家建住宅一棟(但し、長屋二戸分)を取得したものである。」

というのであり、原判決が認定した罪となるべき事実は、右公訴事実中末尾の「喝取し、」とある次より「取得し」とある部分迄を( )で包むほか、右公訴事実の通りであるとしてこれを引用したものであり、原判決は右事実に刑法二四九条一項を適用しているのである。

しかし、右公訴事実では、被告人が川上辰美から喝取した財物が本件宅地の権利証、印鑑証明書及び登記申請委任状であるのか、それとも被告人はこれら自体ではなく、又はこれらと併せて、本件宅地及び住宅を喝取したというのかが不明確である。もっとも、右権利証等を交付させたことが即ち宅地、建物の喝取であるという趣旨に解されないではない。なるほど、被告人は右権利証等の交付を受ければ、いつでも本件宅地を自己名義に所有権移転登記手続をすることができるし、第三者にこれを売却してその者に対する登記手続をすることもできるであろうが、しかし、そのためには新たな行為が必要であるし、また川上辰美が被告人に対し本件宅地、建物を交付する旨の意思表示をしたことは何ら記載されていないから、本件宅地の権利証等の交付を受けたことがそのまま本件宅地を取得したことになるとはいえないし、ましてその上にある住宅二棟を取得したことになるとはいえない。そうして、もし本件公訴事実が、被告人が本件宅地及び同地上の未登記建物を交付させて取得したことが恐喝罪にあたると主張しているのであれば、その取得の日時、場所、方法(被害者の行為又は登記名義の移転)を具体的に記載して訴因を明示しなければならないのに、これがされていないのであるから、原裁判所はすべからくこれらの点について検察官に釈明を求め、訴因を特定させ、その趣旨を明確にさせたうえで被告事件の審判をするべきであったのに、記録によれば、原裁判所は、その措置をとることなく本件について審理を終え、罪となるべき事実として右公訴事実を引用して判決をしたことが認められる。なお、原判決が前記の部分を括弧で包んだ趣旨は明らかでないが、そうしたからといって、本件恐喝罪の対象を権利証等のみに限定したものとは解されない。そうしてみると、原審の訴訟手続には審理不尽の違法があり、その結果、原判決の罪となるべき事実の摘示には公訴事実と同様の不明確性がもたらされているから、理由不備の違法があるといわなければならない。

(小野 斉藤 小泉)

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